地域医療の在り方について見識を深めるべく、2020年2月に東京で行われたセミナーに参加しました。
研修報告書から抜粋して掲載します。
セミナー概要
「地域の医療を守るために 地方議会議員への期待」
講師:伊関 友伸氏
主催:公益社団法人全国自治体病院協議会、株式会社自治体病院共済会
参考及び引用文献:
- セミナーテキスト
- 人口減少・地域消滅時代の自治体病院経営改革 伊関友伸著 ぎょうせい
院の再生には「物語」が必要
院の再生には「物語」が必要と表現することが多い。職員のやる気が一番重要と考えるからである。そして、物語を支えるための病院マネジメントや資金を揃えて、再生の「物語」をつくるのである。法律や条例、規則だけでは医療者は動かない。医療についての理念を持ち、医療者を大事にし、生き生きと働くことができる医療現場を作ることが、遠いようで病院再建の近道と考える。
病棟の体制見直し、入院期間の適切なコントロールについて。急性期一般入院基本料や地域一般入院基本料は重症度、医療・看護必要度に大きく影響される。重症の患者の入院を受け入れつつ、できるだけ早期の退院を目指す。早期退院を促進すると病床利用率が下がるので、入院患者の増加策を同時に行う必要がある。
救急患者を積極的に受け入れることは、病院全体の重症度、医療・看護必要度の向上、平均在院日数の短縮につながる。また、入退院支援加算を取り、積極的な入退院支援を行うことが重要である。
職員定数抑制第一の自治体病院では、入退院支援部門にメディカルソーシャルワーカーなどの職員を配置せず、入退院促進を行わないことで入院患者や入院単価の伸び悩みを生じさせていることも多い。職員を雇用し、医療提供の質を向上させ、他の医療機関や介護機関との連携で新たな集患を行い、退院を促進することで病院全体の平均在院日数を低下させるという視点を持つことが重要である。
医療・介護の人材不足について
自治体病院の最大の収支改善策は医師の雇用である。医師数が増加することで医療提供力が向上する。患者も集まり、収益が上がる。
自治体病院の経営は悪化の傾向にあり、地方自治体から税金の投入がなされている。自治体病院は地域で必要な医療を提供することを第一とすべきである。
行政の医療・福祉・健康づくり政策との連動しやすさは自治体病院の最大の利点と言える。自治体病院の存在意義としては次のものが挙げられる。
地域の健康を支え、地域の崩壊を食い止める
医療の無い地域では、高齢者は安心して住むことができず、移住せざるを得なくなる。
若い世代にとっても、安心して子どもを産み育てるには、小児・周産期医療や救急医療が充実していることが重要である。
地域医療については「官から民」ではなく、民から公という流れが起きている。
地域の雇用を支える
医療福祉分野が地方の雇用を下支えしているとも言える。
地方の自治体病院は、都市と地方の税の格差を埋める再分配機能を有していると考えられる。
地方こそ研修など人材育成に力を入れることが重要である。医学生や看護学生の研修受け入れや、職員の研修派遣など積極的に行うべきである。
どのようにして自治体病院の経営をよくするか
現在の国の診療報酬政策は、薬価差益への重点配分から技術や医療提供の質に対して配分される時代になっている。
医師や看護師などの職員数を増やすといった投資を行って医療提供能力を向上させ、入院・外来単価の増加により経営改善を図ることが必要となる。
不採算地区で病院を経営することは非常に難しい。地方交付税を裏付けとした一般会計からの繰入金は必要と割り切る。
≪自治体病院の経営改善の取り組み策≫
- 病院のビジョンの再確認とビジョンを踏まえた具体的な行動
- 医師や看護師など医療者の雇用、特に若手医療者の雇用
- 診療報酬加算取得、職員認定資格取得
- 病院の体制見直し、入院期間の適切なコントロール
- 入院外来患者の増加策
- 医療、介護施設へのアプローチ
- 消防本部救急隊へのアプローチ
- 地域住民、患者へのアプローチ
- 費用縮減の取り組み
交通条件の悪い地方の病院こそ、看護師を始めとする医療人材の育成に取り組み、若い看護師が勤務したくなる地域・病院にしていかなければならない。
具体的には、積極的に研修に派遣し最新の情報を学ばせる。看護の専門性を高めるために認定看護師の資格を取得させる。他にも2015年から導入された特定行為にかかわる看護師の養成を行うことや、看護学生の研修も積極的に受け入れ、病院職員に緊張感をもって仕事してもらう工夫も大事である。
私的医療機関を含めた新卒の看護職員の給料は高くなってきている。自治体病院の場合、年功序列の給与体系を取っていることが多く、新入職員の給与が低いことが多い。これを「初任者調整手当」により、底上げを図る必要もある。
休憩室や更衣室、図書室、食堂などアメニティも勤務場所の選択ポイントの一つである。人の命を助け、厳しい仕事をする医療職員の職場環境こそ配慮すべきである。
ローコスト建築について
最初にCM方式(コンストラクションマネジメント)としてマネージャーが発注者の側に立ち、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理(コストコントロールを徹底してやる予算をオーバーさせない)などの各種マネジメント業務を行う。
基本設計・実施設計については公募型の公開プロポーザルを実施する。建設会社への工事発注については、建設コスト縮減のため、ECI方式(アーリーコントラクターインボルブメント方式)で行う。
基本設計が終わった段階で概算金額を基に施工予定者を決める。「実施設計」には施工予定者も参加させて、ローコスト建築のノウハウを病院の「設計」に盛り込むことが基本的な考え方であり、さらに病院職員もメンバーに入れる。
施工予定者についても公開プロポーザルで決定させる。また、プロポーザルの採点にあたっては、満点に対して5割は人物評価を重視させるものとする。
古い病院を建て替える際は、入院したくなるような病院にすること。
病院スタッフの休憩室や福利厚生、アメニティを充実させる。ポイントはトイレをどこに配置するか。